最高裁判所第三小法廷 昭和26年(あ)2434号 判決 1953年4月14日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人花井忠の上告趣意第一点について。
第一審判決が判示第一事実について下里きみに対する検事の第一、二回供述調書を証拠として採用していること、同女がその取調を受けた当時本件公訴事実第一の(一)の堕胎罪によって刑事訴追を受けるおそれのある被疑者であったこと並に右の第二回供述調書中に検事が同女にあらかじめ供述を拒むことができる旨を告げたという記載のないことはいずれも所論のとおりである。しかし右の第一回供述調書には、検事が同女を取調べるにあたり、あらかじめ刑訴一九八条二項に従って供述を拒むことができる旨告げたという記載がある。第二回の取調べは、それから八日の後になされたのであるが、同一の犯罪につき、同一の検事野尻作次によってなされた取調べであるから、同女はこの時には供述を拒み得ることを既に充分知っていたものと認められる。このような場合には、あらためて検事から供述拒否権のあることを告知しないでも、刑訴一九八条二項に違反するものとは言えない。論旨はこの場合に刑訴法上の違法あることを前提として原判決は憲法三一条に違反すると主張するのであるから、その前提を欠くものであって理由がない。
なお、被疑者の取調にあたって供述拒否権のあることをあらかじめ告知しなかったからといって、その取調に基く被疑者の供述がただちに任意性を失うということにはならない(所論の調書には、下里きみが「任意左のとおり供述した」との記載がある)のであるから、本件につき憲法三八条一項違反を主張することが理由のないことも、当裁判所の判例に照らして明らかである(昭和二五年(れ)第一〇八二号同年一一月二一日第三小法廷判決、昭和二二年(れ)第一〇一号同二三年七月一四日大法廷判決参照)。
同第二点について。
論旨は結局量刑不当の主張に帰する。所論憲法三七条の「公平なる裁判所の裁判」というのは、しばしば当裁判所の判例に示されているとおり、構成その他において偏頗の惧なき裁判所の裁判という意味であるから、原判決の量刑が被告人の側から見て不当であったとしても、その故を以て原判決が憲法の右の規定を侵犯したものということはできない(昭和二二年(れ)第四八号同二三年五月二六日大法廷判決等参照)。論旨は採用することができない。
なお記録を精査しても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。
よって同四〇八条により主文のとおり判決する。
この判決は、裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)